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韓国伝統芸能の豊かさと魅力を現代的演出にとりこんだ みごとな舞台

韓国国立劇場『胎』
鑑賞日:7月10日(金) 19:00~
男性

 韓国伝統芸能の豊かさと魅力を現代的演出にとりこんだ、みごとな舞台でした。現代演劇にこんな可能性があるのかと瞠目・感嘆しつつ、約80分間、舞台を見続けました。

 ハングルをつくったことで知られるのが、大王世宗(セジョン)。朝鮮王朝第4代国王(在位1418-50)で、現在その肖像が韓国の1万ウォン紙幣に使われています。

 王の没後、跡を継いだのが長子の文王。文王は在位2年で他界し、年若い息子が端宗(タンジョン)として即位します(在位1452-55)。しかし端宗は、叔父の首陽(スンヤン)大君(父の弟、大王世宗の次男)に王位を奪われ、東方に配流されてしまい、首陽大君が第7代国王・世祖(セジョ。在位1455-68)となります。

 大王世宗の時代以来王室に仕えた学者・役人のなかには、世祖の即位をうけいれず、端宗の復位を図って処刑された者、終生世祖に仕えなかった者もいました。都を追われた端宗は、わずか16歳で絶命。

 今回上演された呉泰錫(オ・テソク)作・演出『胎~The Life Cord』は、幼王端宗と世祖の治世が背景となっています。15世紀後半、日本でいえば室町中期、将軍足利義政の時代、応仁の乱のころにあたります。

 私たちにはなじみの薄い王位交代劇ですが、この時代に朝鮮王朝でみられた権謀術数や面従腹背、裏切りや陰謀などは、時代や地域をこえて、人間社会で、くりかえし現れるものです。『胎』では、象徴的な演出も多用して(笠、純白の衣裳など)、権力をめぐる狂態暗愚、民衆の喜怒哀楽がみごとに舞台化されていました。

 単純化された舞台装置、名優たちの演技もさることながら、深く心をとらえたのは、伝統芸能が効果的に取り入れられている点です。開演時をはじめ、独特の雰囲気をかもしだす牙筝(アジェン)とテグムの調べ、打楽器の響き。また、ときおりパンソリ唱手が登場して、「恨」の語りを聴かせてくれました。拍(パク。合図をする木片。宮廷音楽で用いる)が使われていたのも、驚きでした。

 終演後、作・演出の呉泰錫氏を迎えたポストトークでは、氏が作劇についての考え方、発声などについて語ってくださり、誰からも聞いたことのない見方を教えられました。

 私は、韓国国立劇場や国立国楽院(ともにソウル)でパンソリ完全版や伝統芸能公演をくりかえし鑑賞しています。世田谷パブリックシアターはこれまで、「韓国現代戯曲ドラマ・リーディング」シリーズや、今回のような現代演劇の来日公演など、意欲的な企画を続けてこられました。今後は、これらに加えて、パンソリや舞踊・器楽など韓国古典芸能も招聘されることを期待いたします。たとえば、「日韓の語り芸――恨と笑い」として、パンソリと義太夫、能狂言などを演じる試みも考えられると思います。

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2009年07月31日 22:00に投稿されたエントリーのページです。

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