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鵜山 仁 × 笹本玲奈 × 小田島雄志「生きている『ジャンヌ』を」
朝日カルチャーセンター講座より、一部抜粋

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8月10日(土)13時30分~15時  於:朝日カルチャーセンター新宿教室

8月の昼下がり、朝日カルチャーセンターの講座「生きている『ジャンヌ』を」に、当劇場『ジャンヌ』チームから、翻訳の小田島雄志さん、演出の鵜山仁さん、そして、ジャンヌ・ダルク役でご出演の笹本玲奈さんが講師として登壇いたしました。
現在、稽古中の本作『ジャンヌ』に対する想いを語ったり、作者バーナード・ショーの思惑に迫ってみたり、はたまた稽古場での裏話が飛び出したりと、とても楽しい講座となりました。また、受講者の皆様からもさまざまなご質問をいただき、ざっくばらんな質疑応答に会場は笑いが絶えず......。ぜひ、作品と合わせてお楽しみいただきたく、その一部をご紹介いたします!

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小田島:(鵜山に)まず、本作(原作:バーナード・ショー『聖ジョウン』)をやろうと思ったポイントを聞かせてください。これまでに、何かバーナード・ショーの作品は読んでいた?

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鵜山: 今回は世田谷(パブリックシアター)からお話をいただいて、読み直しました。現場報告のような話になりますけど、大体2週間くらいテーブルを囲んで台本を持って読み合わせを行い、二度ほど台本のあたまから最後まで立って動いてみたところです。明日からガンガン行こうかという段階です(笑)。小田島先生もおっしゃったように、今回、女性は笹本さん一人きりで、あとは笹本さんより年齢のいった男性ばかりです(笑)。バーナード・ショーは94歳まで生きたのですが、67歳の時に本作を書いていて、そのことをしみじみと考えるようになりました。というのは、僕は60歳なのですが、いい年をしたおじさん(バーナード・ショー)が16~19歳の少女のことを気にしていたらしいということが、僕の一番の興味なんです。「大人になるということは、後ろめたいことをすることだ」と言っていた人がいます。思い当たる人もいらっしゃると思うのですが(笑)。例えば、ジャンヌ・ダルク裁判に関わった聖職者たちやイギリスのウォリック[今井朋彦]という政治家、のちのフランス王シャルル[浅野雅博]、そして、戦いに協力した将軍たち、兵隊たちなど色んな取り巻きがいて、ジャンヌは三蔵法師ではないけれど、西遊記のようにいろんな仲間を引き連れて旅をしたわけで、男世界で一人だけ女性、紅一点だったわけです。しかし、三年後、彼らに裏切られ、火あぶりにされてしまう。これは一体どういうことなのだろうと考えます。大人たちが自分たちの利害のために、理想をもった女性を見殺しにしたといってもいい話です。最初は単純にそう思っていたのですが、最近、稽古をしていくうちに、そう単純な話でもないんじゃないかと思うようになった。現実にまみれた大人たちは理想を必要としているし、理想に燃えた乙女もまた、理想だけでは生きていけなくなるというこの切り結びを、作家はとても大事にしていたのではないかと思います。笹本さんが稽古場で男性陣......おじさんたちに取り巻かれて実に良いのですけど(笑)、考えてみると、昔、彼女が演じたピーターパンとジャンヌはとても似ているなと。大人になれなかったというか、大人になりたくなかった少女だったのではないかと思います。明日からは、この線で稽古をやろうかな、なんて(笑)。今、暑い中ですが、僕自身はとても楽しんでやっています。本当に言葉が多い作品で、場合によっては小うるさい芝居になりがちですが、そこは、"大人と娘"、"現実と理想"、"現世と来世"というか、さまざまな対立項を衝突させて、そこのコントラストを際立たせることで面白い芝居にしていきたいと思っています。

小田島: ありがとうございます。では、そろそろ皆さん、お待ちかねの笹本玲奈さんのお声を聞きたいと思います(笑)。稽古に入るまでジャンヌ・ダルクをどのように思っていたの?
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笹本: 非常に有名な歴史上の人物ですし、いつか自分も演じてみたいとずっと思っていたのですが、いざ、このお話をいただいて改めて調べ始めた時に、本当にこの人は実在したのかなと疑問がでてきました。話がどんどん膨らんでいって、劇的な人生に誰かが話を作ったのではないかというほどまで思えてきて。ですが、今回、バーナード・ショーの本を読んで"本当にジャンヌ・ダルクっていたんだ"というのが第一印象でした。17歳で戦いに行って戦争を勝利に導いて、シャルルを王様にしてあげて......結果、火あぶりにされてしまったというのが私も含めて皆さんの知っているジャンヌだと思います。非常に強くひとつの信念をもって、死ぬ時までその信念を曲げずに生き抜いた女性、という印象を持っていたのですが、この本には、火あぶりになるまでの表面的なところよりは、そのバックステージを描いているような作品で、戦いに行くまでにどういうやり取りがあったのかとか、複雑な人間関係の中、どういう経緯で火あぶりという結果になったのかというところが、すごく細かく書かれています。ジャンヌが人間関係に悩む姿とか......。私が一番かわいらしいなと思ったところは、いざ戦いに行くといった直前に泣いてしまうんですよね。ジャンヌのことをすごく強い女性だと思っていたのですが、そういう部分に、やっぱり17歳の女の子なんだなとリアリティを感じました。

小田島: 非常にうれしいのが、今回の(講座の)テーマが「生きているジャンヌ」だということです。僕自身もジャンヌというのは伝説的な物語の人で、どこかで作られた人間像のように思っていました。改めて自分で翻訳したときに、意外だったのだけれど、やっぱり生きているのだなという気がした。なので、今日は勝手に「生きているジャンヌ」というテーマにしてしまったのだけど、笹本さんからも今のような話が聞けてうれしかったです。そして、この前、稽古を見てきたのですが、皆さん、笹本さんのジャンヌは本当に魅力的ですよ。生きていてよかった、本当に(笑)。これを観ないと、今生きている意味がない、後悔しますよ。
笹本さん、稽古に入って、最初に思っていたジャンヌ像から変貌したり、発見した点はあった?
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笹本: ジャンヌが聴いた声、つまり、お告げでしょうか。本当に聴いたのかなって信じられなくて、聖キャサリン様や聖マーガレット様(聖女)も実在したのかなと思っていたんですけど、聖女というのはもともと存在していた人間が後に認定されるのですよね。人が想像していたものが天使になったのではなくて、実際にいた人間で、絵でもそれが残っている。鵜山さんに聖キャサリン様やマーガレット様の絵を見せてもらったのですが、その時うれしそうに「結構色っぽいんだよ」と言っていらして(笑)。
そうおっしゃっているのを聞いたり、絵を見たりすると、バーナード・ショーは"お告げが聞こえたりするのは彼女の信仰の深さとか愛国心とかが激化したものだ"と書いているのですが、すごく身近なことに感じました。

小田島: そのお告げの問題ですが、バーナード・ショーが序文に書いていることによると、"人間には想像力の強い人がいるのだ"と。"本当に見たり聞いたりしているんだ"と。そういう人間の想像力というものをバーナード・ショーは信じているんです。例えば「あの子を殺せ」とかだったら、それは悪魔の声なのですが、聖キャサリンやジャンヌは狂気じゃなく、正気の人間として声を聞いていたんだ、とショーは言っている。だから、こういう芝居になっているんです。さっき、(笹本さんが)"かわいいところがある"と言ったけれども、本当に少女なんですよね。これは稽古に入って実際に演じてみてわかったわけですか?自分にはジャンヌに共通する部分があると思いますか?

笹本: はい、稽古に入ってわかったことです。ジャンヌと共通する部分......全然、状況は違いますけれども、(ジャンヌが戦いの直前に泣いてしまう姿は)本番初日を迎える前に震えが止まらなくなるのと似ているなと......。読み合わせの時に鵜山さんが「ここは笹本玲奈の見せ場だ。男の人が"かわいいな"と思って、落ちるくらいの芝居を見せろ」とおっしゃって(笑)、"あ、強い女性像だけを演じるのではなく、そういう弱い部分も見せていいんだ"と役者としてもやり甲斐があるなと思いました。

小田島:では、周りのおじさんたちというのは......

笹本: いえ、おじさんじゃない人もいますけど。私より年下の人もいますよ(笑)。
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小田島: ただ、村井くん[村井國夫]が演じるカトリックを代表するような権力を持ったおじさんたちや、私生児デュノア[伊礼彼方]や青髯ジル・ド・レエ[馬場徹]とか、男から見るとかわいいというか、面白い人間だなと思うんだよね。ちゃんと生きているのだなと。ジャンヌから見て、やはりおじさんたちはかわいいと思う?(笑)

笹本: そうですね。エピローグのシーンがみなさんかわいいなと思います(笑)。

小田島: エピローグのシーンをご覧になると分かるけれど、普通だったら火あぶりになって芝居は終わっていいんです。ですが、(バーナード・ショーの本作は)エピローグってのが結構長いんですよね。死んだジャンヌや他にも死んだ人間がぞろぞろと出てくるのだけれど、何故、ジャンヌが火あぶりにならなければならなかったのか、そして単に宗教裁判が終わっただけじゃなく、その背景のプロテスタントやカトリックの争いやイギリスとフランスの争いがある。ジャンヌが、"イギリス軍が、いまフランスに入ってきている。フランスの土地であり、フランス語を喋る私たちの国にイギリス軍がいるなら、お告げの通り、イギリス人はイギリスへ追い返すしかないのだけど、あの人たちだって、自分の国に帰って自分の言葉を喋れば、結構いい人たちなのよね"みたいな台詞があるよね。バーナード・ショーは、ジャンヌが火あぶりになって終わっただけでは、自分の言いたいことがどうしても残ってしまう。それで、エピローグの形で、いろいろな(ショーの)意見をもう一度、観客に見直してもらいたがっているようですね。そういうかたちで、再度、登場するおじさんたちは、本当に素直なんだよね(笑)。
では、鵜山くんの演出で、具体的にこういうところがジャンヌとして大事だと思った点は何かありますか?
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笹本: 沢山ありすぎて......。先程、お話したように、皆さんは歴史上の戦う女性というイメージをジャンヌに思い浮かべるのではないかと思います。その中で、そうじゃない田舎娘のジャンヌがもつ素朴さとか弱さとかを表現していくことを教えていただきました。本当に世の中のことを知らなくて、自分の名前も書けないような素朴な少女が、シノンで戴冠させるとか、そういうことがなぜできたんでしょうね。

小田島:そのシャルルという皇太子が本当に馬鹿なんだよな(笑)。ジャンヌのやっていることを、本当に分かっているのか、お前!と言いたくなるよね。これまた、周りの男の馬鹿なところや愚かさなどといった人間としての基準みたいなものが、ジャンヌと触れることであらわになる。愚かさが出たり、立派さが出たりしてくるんだよね。あとはやっぱり、鵜山くんらしさがでたりするんだよね(笑)。
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鵜山: 自分たちが失ったもの、若さとかピュアな輝きとか理想とかを目の当たりにするというのは、稽古の現場の実感としてもそうではないかと思うんです。それらは取り返しようがない、戻ろうとしたって戻れないわけで、じゃあどうするかということなんです。このところ自分の歳のことばかりを言っていますが、30代くらいまでは割と自分のことばっかりを考えていれば良かったのですが、まぁ、今も自分のことしか考えてないんですけど(笑)、今は、ほかの人が必要になってきたというか、日常生活の中でもそうですけれど、稽古場でもそれと同じようなレベルでお告げが必要になってきた(笑)。それはシェイクスピアのお告げであったり、バーナード・ショーのお告げであったり、井上ひさしさんのお告げであったりするんですけど。そういう自分が生まれる前や死んだ後につながる回路や道筋の中で、人生の善し悪しを考えていくことがないと、前に進んで行きにくくなったところがあります。例えば小田島先生は、ずっとハムレットに影響されっぱなしなんじゃないかと思うんだけど(笑)、要するに芝居の登場人物や作家に影響されると同時にお客さんに影響される、そういうことに対して多少謙虚になってきたのかなと。今回も僕らは笹本さんのジャンヌ、ジャンヌの笹本さんに影響されようと思って稽古をしているところがあります。だからって、全部責任かぶせちゃうわけにはいかないけど......(笹本さんに)まぁ、よろしくお願いします(笑)。

小田島: (鵜山さんに)笹本ジャンヌというのは稽古に入る前とその後で変わった?

鵜山: 一緒に変わっていっているからよく分からないですけど、やっぱりこの方は声がすごく豊かですね。僕は芝居を作る時に、目的はただいろんな音が聞ければいいということなんですけど(笑)。高い声だったり、低い声だったり、小さい声、優しい声、怖い声と......まぁ、変わった声さえ聞ければいいんです、舞台で(笑)。もちろん感情がこもっていたり、人生が乗っかっていたりしないと面白くないわけだけど、そういう彩り豊かな声が聞ければいいなと思う。(笹本さんからは)もっと聞けるんじゃないかと、常に思いながら稽古をしています。彼女のおかげで(作品の)見通しも良くなってきています。あ、ジャンヌがどう変わってきたかでしたね......そう、それこそ死後のジャンヌは何が欲しかったのかなと考えるようになりました。大人になれなくて、大人になりたくなくて死んでいったとはいえ、その死んだ後、ここから先、何百年、何千年と生きていくために、子どもであれ、大人であれ、人類が生きていくために何が必要なのかなと。先程、生きる力とおっしゃったけれど、そういうことを割と楽観的に、前向きに考えていた作家なんじゃないかなと思います。ジャンヌは自身も学び、それを大人に知らしめてくれた、実はそういう作品なんじゃないかなということを、最近、発見しつつあります。

小田島: では、これだけは言っておきたいということがあればどうぞ。

笹本: 皆さん、すごく難しいお話だとお思いかもしれないのですが、小田島さんも言ってくださったように、重厚さだけではなくて、ところどころ面白いシーンもあって、エピローグも楽しかったね、とちょっと笑顔になって帰っていただけるような作品です。副題(『ジャンヌ』~ノーベル賞作家が暴く 聖女ジャンヌ・ダルクの真実~)って鵜山さんが考えたんでしたよね。その副題にある聖女ジャンヌ・ダルクの"真実"というのがわかると思います。

小田島: ありがとうございます。鵜山さんからもどうぞ。

鵜山: 場面の展開も、宮廷があったと思ったら戦場があって、かと思えば裁判があって......ちゃんと衣裳を着替える時間とかとっている戯曲だったり(笑)、大人数が出てきたかと思えば、次は少人数になったり、ずっと喋っていたかと思えば、がちゃがちゃと大騒ぎになったりして、とても変化に富んでいる芝居です。その分、自分にとっては(演出上)超えなければならない壁がいくつもあるのですが。こういう作品は、しっかりと時間を掛けられる公共劇場でないと取り組むことが難しい作品だと思いますので、是非、この機会にご覧になってください。

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2013年8月28日 16:01に投稿されたエントリーのページです。

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